あなたの知らない世界<2度あったことは「1度」があった>
2度あったことは当然最初(1度)があったわけで。つまり、妹(娘②)に起きた出来事は姉(娘①)にもあるという・・・なんていう、パラドックスにはならないか。
それはさておき、その昔ちょっぴりテレビに出たことがある娘②だが、じつは娘①にもあった。やっぱり姉妹だ。娘①のときは2歳。「ちょっときてみませんか」と声をかけられたのは、あるオーディションだった。私は、野次馬根性と子どもたちがたくさんくるんだろうから娘①も遊べるかな、と気軽に出かけてみた。ところが、子どもたちでワイワイしてるというものではなく、むしろ「ガラスの仮面」のようなとこだった。そこにいるのは「そういう」子どもたちで、数も10人もいない。幼児の空気とは思えない、重い空気。子どもたちは助監督(?)さんの前の椅子に座り、ひとりひとり演技をしていくのだ。親御さんは子どもから遠く離れた壁際で待機である。当たり前だが、2歳の娘①はやったことも練習したこともない。
場違いなところにきてしまった。
そう思った。青くなった以上に、とても恥ずかしかった。よく考えないで来た自分に。娘①はじぶんに何が起きているのか分からないのだろう。恐怖からか、名前をよばれても返事もしない。椅子に座ったまま、振り返って、黙って私を見ている。頬には涙がずっとつたっている。泣き叫ばず、ただただ、こちらを見ている。がまんできなくなって、私は娘①をさらうようにして連れ帰った。
部屋をでてすぐ、娘①を抱きしめて謝った。もうしないことを伝えると「うんうん」といってまた泣いた。「さあ帰ろう」とエレベーター前で待っていると、廊下を歩いていく親子がいた。最終選考にもれて、帰るところだったのだろう。ツカツカと早足で歩いていくママさんの後を、男の子が「ごめんね、ママ!次はちゃんとやるから!」と涙声で訴えながら追っかけて行った。娘①と同じくらいの歳である。「大人も子どももない」という厳しい世界を垣間見たような気がした。
それ以来、二度とやろうと思わなかった。が、1度あることは2度あるわけで。私も懲りない。
最後に。娘②は、こういうガラスの仮面的な経験が一切なかった。何度かの現場でも他のお子さんがいるというのもなかった。不思議である。
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